ここ数年、スーツスタイルにロングパンツではなくショーツを合わせる動きが見られてきたが、実際にそれを打ち出してきたのは、ほんのわずかな大胆なデザイナーたちに限られていた。今年はその流れが再び注目を集めており、カジュアルからエレガントな着こなしまで、あらゆるスタイルでショーツが取り入れられているのが春夏のランウェイに表れている。Casablancaの刺繍入りコットンクロシェショーツ、Commasのジャカードニットショーツ、Zegnaのスエードショーツまで、多彩なバリエーションが登場している。一方ストリートでは、膝下丈のルーズでボリューム感のあるショーツが人気を集める一方で、思い切った丈感のショートショーツや、adidasのスニーカーと合わせたレトロなスポーツスタイルも広がりを見せている。Paul MescalやJacob Elordiといったセレブたちがその代表格だ。この記事では、メンズファッションにおけるショーツの歴史と、今や欠かせない存在となった理由を掘り下げながら、今季注目のスタイルとその着こなし方を紹介する。
ショーツという選択:その歴史と今
ショーツは、2025年春夏のファッションウィークで最も注目を集めた再浮上トレンドのひとつだ。かつてミリタリーやスポーツシーンと結びつけられていたこのアイテムは、今や単なる実用品ではなく、ファッションステートメントとしての地位を確立している。メンズショーツの起源は、テニスや陸上競技など動きやすさが求められる場面で使われていた、完全に実用的なアイテムだった。第一次世界大戦中、英国軍が暑い植民地地域でショーツを広めたことにより、その着用が一般化したが、当時はスポーツや軍の場面以外で男性がショーツを履くことはほとんどなかった。戦後の1940〜50年代、西洋のファッションにレジャーウェアという概念が浸透し、海辺のリゾート地を中心に、ショーツは大胆な柄やベーシックなカーキなどで取り入れられはじめた。
60〜70年代にかけては、ショーツは若者文化の象徴となり、スポーツカルチャーの盛り上がりとともに丈が短くなり、より身体にフィットするスタイルが主流に。ショーツがカジュアルファッションの選択肢として市民権を得たのは、この時代だった。80年代には、Richard SimmonsやArnold Schwarzeneggerらの影響でフィットネスブームが巻き起こり、ショーツはさらに短く、タイトでカラフルに進化。adidasやNikeなどのブランドが、ナイロンやコットンブレンドのスポーツショーツでこの流れを後押しした。一方、日常着としての実用性を備えたバミューダショーツやカーゴショーツも人気を集めるようになる。
90年代にはヒップホップカルチャーの影響を受けてショーツは長く、バギーになり、カーゴショーツやバスケットボールショーツがストリートスタイルの主役に。メッシュ素材のバスケットボールショーツは、コートの外でも着こなされるようになり、アスレチックカジュアルの定番として定着した。2000年代初頭には、多ポケット仕様のカーゴショーツがY2Kファッションの定番となり、アスレジャーの流れの中でカジュアルなスポーツショーツも継続的に支持された。
2010年代には、丈が膝上で止まるショーツがトレンドとなり、チノショーツが登場。洗練されたフィット感を持ち、セミフォーマルな場面でも通用するようなスタイルが広まっていった。映画やテレビの中でも、年代ごとに象徴的なショーツスタイルが登場している。『007 サンダーボール作戦』のSean Conneryから、『THIS IS US』のMilo Ventimiglia、そしてNetflix『モンスター:ライル&エリック メネンデス・ストーリー』で80年代後期のメネンデス兄弟を演じた, Nicholas ChavezとCooper Kochまで、その例は枚挙にいとまがない。
最新のランウェイでは、Dsquared2が90〜2000年代にインスパイアされたショーツを、Dolce&Gabbanaはソリッドカラーやプリントで構成された洗練されたバミューダショーツを、Valentinoは膝上丈の定番ショーツをモノトーンルックで、そしてBurberryではレザーやコットン素材を使った膝丈のバギーショーツを発表。中でもフローラル柄を取り入れたモデルは、今季の注目スタイルとして際立っていた。Tom Fordでは、より短く仕上げながらもエレガントな印象のショーツが披露され、存在感を放っている。今季注目のモデルとしては、Bodeのナイロン素材×カラフルなカラーで仕上げた80年代風ジムショーツや、太もも中ほどにかかるペアドパックスタイルのショーツなどが挙げられる。
2025年 注目のショーツスタイル
最新のランウェイで登場したデザイナーズメンズショーツの中でも、特に印象的だったのがいくつかある。まず注目したいのがメンズのカーゴショーツ。今季はStone IslandやC.P. Companyが象徴的なスタイルを打ち出しており、ユーティリティ感のある佇まいと複数のポケットを備えたカーゴショーツは、ラフでこなれた着こなしにぴったりな定番アイテムとなっている。
最もエレガントなスタイルといえるのは、間違いなくテーラードリネンのショーツだ。Brunello Cucinelliのような“静かなラグジュアリー”を象徴するブランドをはじめ、JacquemusやBossといったブランドからもバリエーションが登場しており、メンズリネンショーツはスタイリング次第で、暖かい季節のセミフォーマルなシーンにも対応できる。
よりエッジの効いたスタイルを好む人には、Dries Van Noten、Y-3やComme des Garçons Homme Plusなどが提案する、オーバーサイズでルーズなバミューダショーツが目を引く。今季の中でも特にトレンド感のあるタイプで、同じくボリュームのあるアイテムと合わせることで、全体のシルエットを強調する着こなしが印象的だった。
また、定番のジーンズショーツも新たな形で再解釈されており、Dsquared2やJW Andersonなどが提案するスタイルでは、シンプルなTシャツと合わせるのはもちろん、デニムシャツなどと組み合わせてよりファッション性の高いスタイリングに仕上げることもできる。今季最も注目されているメンズショーツのスタイルを把握したところで、それぞれのショーツをどう着こなすか、そのスタイリング術を見ていこう。
短丈ショーツ、洗練された取り入れ方
どのタイプのショートパンツが自分に似合うのか迷っているなら、参考にできるいくつかの基本的なガイドラインがある。たとえば、背が高めの人には、ストレートでテーラード仕立てのバミューダショーツがよく映える。中肉中背の体型なら、やや長めのショーツがおすすめ。体格にボリュームがある人は、ルーズでオーバーサイズなショーツを選ぶとバランスが取りやすい。この夏、ショーツをどうスタイリングするか迷ったときには、最新のランウェイトレンドをもとにした着こなしを参考にするといい。Amiriでは、テーラードショーツにブレザーとローファーを合わせた、スマートカジュアルの進化形ともいえるスタイルが展開された。日中のリラックスした着こなしなら、Mihara Yasuhiroのように、カーゴショーツにチェックシャツとスニーカーを合わせるコーディネートがちょうどいい。ビーチ寄りの軽快なスタイルをめざすなら、Ami Parisのように、膝下丈のショーツに半袖のVネックニット、スエードのシューズを合わせたルックが参考になる。よりエッジの効いた印象に仕上げたいなら、LEMAIREのようにすべてをオーバーサイズで揃えたレイヤードスタイルが効果的。ルーズフィットのショーツにシャツ、ベスト、トレンチコートを重ね、足元にはレザーサンダル、そして夏の夕方に映えるLEMAIREのショルダーバッグで仕上げる。フォーマル寄りのスタイルなら、Jil Sanderのコレクションを参考に、テーラードのブラックショーツにシャツとネクタイ、ニットをレイヤードし、仕上げにアニマル柄のブーツでアクセントを加えるという着こなしも印象的だった。また、Maglianoのランウェイでは、デニムショーツと同素材のデニムシャツを合わせた、いわゆる“トータルデニム”のルックも登場。足元には編み上げのレースアップシューズを合わせ、洗練されたストリート感を演出していた。
メンズショーツは、実用的なルーツから大きく進化を遂げ、現在ではカジュアルにもフォーマルにも対応する、万能なワードローブの定番アイテムとなっている。テーラードリネンのショーツから、オーバーサイズのバミューダ、レトロ感漂うジムショーツまで、今季のコレクションには、あらゆる好みやシーンに応える豊富なスタイルが揃っている。自分の美意識に合った一着を選び、個性が表れる組み合わせに挑戦しながら、このトレンドを取り入れてみてほしい。ショーツを、春夏のスタイルに欠かせない存在へと引き上げる方法を見つけてみよう。