Alyxデザイナー、マシュー・ウィリアムスとの対談。
レディ・ガガやカニエ・ウェストのスタイリストを務めた後、現在最も注目されるブランドの一つアリクスを手がけるカリフォルニア出身のデザイナーマシュー・ウィリアムス。ルイーザヴィアローマは現在彼のブランドの生産拠点であるイタリア・フェラーラに滞在する彼と対談の機会を得ました。
レディ・ガガやカニエ・ウェストといったセレブリティと仕事をされた事が注目を集めるきっかけだったと思いますが、そもそもなぜこの世界に入られたのでしょうか。
彼らに会う前から僕は服作りをしていました…いくつかのブランドで働いた経験があります。彼らとの出会いは、彼らのスタイリストがステージ衣装を作るために僕を雇った事がきっかけです。この仕事をするようになって、彼ら自身とも知り合えるようになり、ビデオ撮影やライブツアーで使用する小道具の作成とアートディレクターを依頼されました。その後総合クリエイティブディレクターも任されました。
まだインスタグラムなどがなかった頃に音楽とファッション業界で働くのはどのような感じでしたか?
ファッションブランドはミュージシャンに対してそれほど簡単に衣服の提供を行ってはいませんでした。シャネルがマドンナに提供といった話もありましたが、一般的なことではありません。ミラノやニューヨークのようなファッション都市にはファッションスタイリストがいて、セレブリティや音楽関係のスタイリストはロサンゼルスにいる。彼らの間にはつながりがなく、交流はありませんでした。まれに例外もありますが、ある程度の規模で仕事をするには物理的に移動することが必要だった。ガガのために働き始めた頃、彼女に服を貸してくれる人はいませんでした。ニコラ・フォルミケッティと一緒に働き始めるまでは大きな障壁がありました。彼がファッション業界の窓口になってくれて、僕達に雑誌やファッションカメラマンを紹介してくれた。ニコラが僕達と働くには相当の覚悟が必要だったことでしょう。僕はファッション業界に誰一人として知り合いがいなかった、カリフォルニア育ちですし。僕達は一緒に素晴らしい事を次々と成し遂げた、おぉすごい、なんてグレートなチームなんだ、っていうのが周りの反応でした。それで、僕達は次のステージに活動を移しました。始めは苦難の連続でしたよ。全てを自分達で手がけなくてはいけなかったから、ガガが着用した代表的なアイテムもほとんど全てね。
この経験の後に自身のレーベルを立ち上げられました。どのような経緯があったのでしょうか?
セレブリティと呼ばれる人たちと働く前、僕はニューヨークとロサンゼルスで他のブランドに勤めていました。自分のレーベルを持つことをずっと夢見ていたので、自分が当初ゴールとして目指していた事に挑んだのです。10年間の経験で学んだ事を総動員して、自分のブランドに全て注ぎ込みました。僕は成熟したし、自分が欲しかったものに対する信念ははっきりしていました。
ブランドのミューズとなる人物やインスピレーション源はありますか?
ミューズは僕の妻。インスピレーションは絶え間ない進化です。僕たちはいつもシーズン毎に構築する美学に沿って働いています。その美学には共通点があって、小さなテーマがは変わることもあるけれど、シルエットは同じだし、似たような糸を使って生地を改良します。生地作りって本当に時間がかかるんです!何事にも良い物を作ろうと思えば時間がかかります。僕らはいつも自分達が誇りを持てるもの、お客さんが楽しんでくれるものを世に送りたいと思っています。
そう、長く使える服ですよね。アリクスのアイテムはイタリア製ですが、なぜイタリアで製造しようと決めたのでしょうか?
イタリアで服作りをするのに憧れていました。無限の可能性、世界随一の職人を抱える国です。僕がここに来たのは僕が作りたいと思える服を作ることができる世界で唯一の場所だと感じたから。貴重な場所が次々失われていく中で、最後に残っている場所のひとつ。
今はイタリアにお住まいですね?いかがですか?
とても楽しんでいます、ここにはカリフォルニアを思い出させてくれる要素もたくさんある。ワインの国で、渓谷、山、島があって、気候の移り変わりを感じられる。イタリア特有の家族観も大好きです、美しい文化があり、生活の質が高く、食べ物はおいしい、これ以上僕が幸せになれる場所はない。僕と僕の家族にとってはものすごく刺激的な経験です。
ファッションに話を戻して、現在のノスタルジックさのトレンドについてはどうお考えですか?
僕はノスタルジーなものにあまり注意を払ってはいません。僕自身はノスタルジックな人間ではないから。「おぉ、何か80年代か90年代風のことをやらなくては。」とは考えない。僕は常々、自分が新しいと感じるもの、モダンと感じるものを欲しています。
今、あなたのアリクスやオフホワイトなど新しくモダンなブランドが特に若い世代に受け入れられています。業界で勢力を増しているこれらのニューウェーブに対するお考えをお聞かせください。
僕がこの話題をするのにふさわしい人物だとは思いません、あまりにもファッション業界の内側にいすぎるから。あるトレンドがどれだけ成功するか、もしくは、ある事がどれだけ世間に受け入れられたのかを判別するのは難しい。今や僕達は全てをインターネットで知ることができるけれど、僕にはそれがリアリティなのかわからない。売上のレポートと“ヒット”したものがいつも一致するとも限らない。以前なら、もしニューヨークの街中で見かけたり、クラブで見かけたのならその何かがヒットしていると言えたものでしたよね。
難しい時世ですね、これが新時代ということでしょうか。私達の生活様式は、ソーシャルからショッピングまで全てが新しい、それはデジタルだから。今その時代は始ったばかりです。
そぅ、なぜ僕のビジネスが若い世代に支持してもらえているのか?理由を考えてみよう。
20世紀に成功したビジネスモデルはどれもそのままでは21世紀に生き残れない。ビッグブランドであっても従来どおりのビジネスを続けているとすれば、その多くは近いうちに衰退するのが確実だと僕は思う。こんなに難しい時代にも成長している僕達のようなブランドにはより大きなチャンスがある、僕達自身もその一部である世代とコミュニケーションがとれるから。僕達は新しい事にトライすることや周りの意見を聞くこと、自分達自身にコミットすることに寛容です。大企業にいると、シンプルにビジネスを手がけるということが難しい、過去のしがらみがあったりね。難しい時世ではあるけれど、今このタイミングで僕達のブランドが立ち上げ期にあるのはラッキーです。
デジタルに話が及びましたが、インスタグラムについてはどう思われますか?ファッションコミュニティに及ぼす影響力は強大ですね。
これこそ一つのリアリティ!僕達の世界がコミュニケーションをとる方法。アリクスを好きだといってくれる人たちと会話する手段となるパワフルなツールです。雑誌や店舗を介して会話する必要がなくなった。僕らが持ちうる最も有力なコミュニケーション経路です。フィルターを通さない生の声が聞こえるのは本当にすごいこと。
ファッションに足りないと思うものは?
自分が足りないと感じるものを僕は作っています、もしくは、あるべきだと感じるもの。環境に与える影響が少ない生地や製造工程を採用するのは僕達の務めです。僕達はどのようにそしてどこでものづくりをするかに意識を向けてるようにしています。昨シーズン、Tシャツ製造にアップサイクルコットンを使うことで僕達は百万ガロン(約379万リットル)もの節水に成功しました。
素晴らしい!残念ながらファッション業界ではこの手の話題はまだ浸透していません…
僕達は小さなブランドです。今でも製品染めを行っていますが、工場は適切なフィルターを備えEUの規定に適合しています。このTシャツ製造工程ではコットンに水を使わずに済み、大幅な節水につながりました。複雑な事ですが、製品を作るにあたり、このような責任はファッション業界でより目を向けられるべきです。時に、ブランド側は顧客の知識や意識が十分ではないと考え、単純に一つの答えを求め、彼らに利益をもたらすであろうものを作る。実際、生きる事は複雑で美しいものです。そんなに単純なものではありません。人々は複雑な考えを理解し、そこに意識を向ける。僕の信念に語りかけてくるんです。僕達は単に服を作っているだけではない。これは単に白いTシャツではなくて、生き方を意味する。これは僕がその一部でありたいと思うもので、アリクスでの活動を通してゆっくりでも着実に成し遂げたいと思うこと。ブランドを選ぶ際の新たな基準のひとつとなりうるだろうし、同じ考えを持って働く他のブランドを刺激しうるものでもあるでしょう。働き方やコレクションを作る過程でこの考えに同調する新しいブランドが出てきてくれれば大きな成功だと思います。ラグジュアリーの新しい在り方でしょう。
僕は自分が全ての答えを持っていると言っているのではなく、今ある制度に従いたくないと言っているのです。僕達は従来と異なるやり方を模索している。僕の考える足りないものとは従来の方法を覆そうとしている会社がまだまだ少ない事。
本インタビューは編集により一部要約されています。
Special thanks to Matthew Williams.